大暑の候、暑さ厳しい毎日ですが、いかがお過ごしでしょうか。
まだまだ暑い日が続きますが、くれぐれもご自愛くださいませ。
さて、2024年12月に従来の健康保険証が廃止され、マイナンバーカードを健康保険証として利用する「マイナ保険証」が原則となりました。また、従来の後期高齢者医療証も原則としてこの7月31日をもって失効するはずですが、実際には困っておられるご高齢の方を見かけることはほとんどありません。本来であればパニックやトラブルが多発してもおかしくないはずですが、実はこれにはからくりがあり、実際の運用においてマイナ保険証がすでに形骸化していることを意味します。
最も大きな問題は、利用率の低さです。政府はマイナ保険証の普及を目指していますが、2025年時点においても医療機関における利用率は1割未満にとどまっているケースが多いです。マイナカード自体の取得率は上昇しているものの、「健康保険証としての利用登録」をしていない人が依然として多数存在しています。特に高齢者やデジタル機器の操作に不慣れな方々にとっては、マイナ保険証の利用はハードルが高く、実際に保険証として活用される機会は非常に限られています。
加えて、「資格確認書」という救済措置が、制度全体を形骸化させる要因となっています。マイナカードを持っていない、あるいは利用登録をしていない方には、申請不要で資格確認書が「自動交付」され、従来の保険証と同様に使用することができます。また、マイナ保険証の登録を済ませている方であっても、カードの紛失や電子証明書の期限切れ、施設に入所しているなどの理由で利用が困難な場合には、申請により資格確認書の交付が受けられます。その結果、ほとんどすべての国民が紙の保険証と同等の手段を保持できる仕組みが維持されており、「マイナ保険証一本化」という建前が、実態と大きく乖離しているのです。しかも、この資格確認書には年限が明記されておらず、場合によっては半永久的に継続される可能性すらあります。
また、制度設計上の課題もあります。マイナ保険証の利用には、専用の読み取り機器や通信回線、ソフトウェアの導入など、医療機関側に一定のコストと業務負担が生じます。しかし、その負担に見合うメリットやインセンティブが明確ではなく、多くの医療現場では形だけの導入にとどまっているのが現状です。
このように、制度の理念と実態が乖離したままでは、「マイナ保険証を原則とする」という制度の趣旨が骨抜きになってしまいます。形式的にはマイナ保険証への一本化が進んでいるように見えますが、実際には従来の仕組みが温存されており、国民や医療機関の多くが紙の保険証と同様の手段を利用し続けている状況です。これは、制度としての「形骸化」と言っても過言ではありません。
このままでは、本来の政策目的である医療情報の一元化や診療の効率化、公平な負担の実現といった課題が達成されないおそれがあります。政府には、国民の信頼を回復しつつ、制度の実効性を高めるための抜本的な再設計が求められています。